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名古屋高等裁判所 昭和59年(ネ)314号 判決 1984年9月26日

控訴人 安井律子 外三名

被控訴人 亡田原都美江相続財産

右代表者相続財産管理人 野田美津子

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人は別紙不動産目録記載の各土地につき、控訴人安井律子に対し持分八五分の二三、同高野 定夫に対し持分八五分の二〇、同今井光一に対し持分八五分の二〇、同山田久雄の持分八五分の二〇とする共有持分全部移転の登記手続をせよ。

三  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

主文第一・二項同旨

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者双方の主張

一  控訴人らの請求原因

被相続人亡田原都美江の相続財産である別紙不動産目録記載の土地の共有持分八五分の八三につき、名古屋家庭裁判所昭和五八年一〇月三一日告知の後記各相続財産処分申立事件の審判(確定日同年一一月一七日)により、特別縁故者として民法九五八条の三に基づき、控訴人安井律子は持分八五分の二三(昭和五七年(家)第三〇五八号)、同高野定夫は持分八五分の二〇(同年(家)第三〇五九号)、同今井光一は持分八五分の二〇(同年(家)第三〇六二号)、同山田久雄は持分八五分の二〇(同年(家)第三〇六三号)をそれぞれ分与され、右割合による共有持分を取得した。

よつて控訴人らは被控訴人に対し右各持分につき共有持分移転登記手続を求める。

二  被控訴人の認否

請求原因事実は認める。

第三証拠<省略>

理由

一  訴の利益につきまず判断するに、相続人が不存在の場合、家庭裁判所は相当と認めるときは、被相続人と生計を同じくしていた者、その他被相続人と特別の縁故があつた者の請求によつて、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる(民法九五八条の三)ところ、右特別縁故者が家庭裁判所の審判によつて不動産の権利を取得した場合、同特別縁故者は、不動産登記法二七条の類推適用により、審判書正本及びその確定証明書を申請書に添付して同審判に基づき単独で権利取得の登記を申請することができると解するのが相当であり、登記実務上もかかる取扱いがなされていることが明らかである(昭和三七年六月一五日民甲一六〇六局長通達)。従つて右の場合、特別縁故者は改めて被相続人の相続財産を被告として分与を受けた権利の取得登記手続を訴求する必要はなく、訴を提起しても、特段の事情がない限り訴の利益はないと認めるのが相当である。

しかしながら成立に争いのない甲第一ないし第三号証によると、控訴人ら代理人弁護士○○○○は昭和五八年一一月三〇日事務員○○○○をして大分地方法務局湯布院出張所に対し、右昭和三七年六月一五日付通達の趣旨に従い控訴人らについて各持分移転登記申請をしたところ、同登記官は、本件は共有不動産につき共有者の一人が相続人なくして死亡した場合であり、かかる場合被相続人の右持分は他の共有者に帰属する関係上、その者に関する相続財産処分の審判が行なわれても、これによつて右持分についての登記を申請することはできない旨説明し、同旨の昭和三七年八月二二日民甲二三五九号民事局長回答並びに通達を示して、控訴人らの登記申請の取下げを勧告したので同事務員はやむなくこれを取下げたことが認められる。

右認定によると、控訴人らは本訴をもつて、被控訴人に対し各持分移転登記手続を求める必要があるものというべく、控訴人らの本件訴の利益はこれを肯定すべきである。すると訴の利益を欠くとして控訴人らの訴をいずれも却下した原判決は相当でないので取消を免れない。

二  ところで被控訴人は、控訴人らの本訴請求原因事実をすべて認めているところ、原判決を取消したうえ本件を原審に差戻しても、事実関係につき審理すべき対象はなく、また法律適用につき争点があるわけでもないから、原審において弁論を行なわしめる必要はなく、従つてかかる場合は、民事訴訟法三八八条の必要的差戻しの規定の適用はないと解するのが相当である。よつて、以下当審において自判することとする。

三  よつて本案につき判断するに、請求原因事実は当事者間に争いがない。ところで共有持分も他の財産上の権利とともに相続財産を構成し、共有持分だけを特に他と区別する合理的理由を見出すことはできないから、共有者の一人が相続人なくして死亡した場合、同人の共有持分は特別縁故者に分与し得る財産に当ると解するのが相当であり、従つてこの場合民法二五五条が優先適用されるべきではない。相続人不存在が法律上の手続によつて確定し、かつ家庭裁判所が右共有持分を特別縁故者に分与しないことが確定したときにはじめてその持分が他の共有者に移転し同人に帰属するものと解するのが相当であるから、控訴人らはいずれも家庭裁判所の本件審判に基づき、実質的に本件土地の持分を取得したものというべきである。右事実によると控訴人らの本訴請求は理由があるのでこれをいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 井上孝一 喜多村治雄)

不動産目録<省略>

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